変わらない

●「言葉って、さ、ただの当てはめだから」  

  「うん、そうだね」

 


「信じるとか、本当とか、それを簡単に言葉にする人ほど、怖いなって、思っちゃう、」
  「こわい?」

 


「うん、そういうのって、言葉にできるものじゃないから」
  「私は、それをそういう風に言えちゃう君が、とても、怖いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


●「どういう時が、幸せ?」
  「、食事の味が、ちゃんとわかる瞬間が幸せかな」

 


「鼻が詰まってるか、詰まってないかってこと?」
  「そういうことじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


●「固有名詞って、そんなに大事?」
  「え?」

 


「ただでさえ、言葉って呪いで、縛り付けるものなのに、男、とか、女、とか、人間、とか、人生、とか、仕事、とか、そういう、決まりに決まった名称って、そこまで必要じゃなくない? だって、そういう言葉に、自らの事情なり、主観なりを後付けして、なんとか生きてる風に仕上げてるけど、それは違って、ただ存在しちゃってるだけ、心臓とか、脳は生きてるかもしれないけど、自身は生きてるわけじゃない」
  「なにを大事にするか、なにが大事なのか、それって人それぞれだよ。固有名詞?を大事に抱えている人からしたら、君みたいな人は、あり得ないだろうね」
  

 

「じゃあ、分かり合う、って、結構難しいことなのかな」
  「うーん、分かり合う、じゃなくて、分かち合う、じゃない?」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●「自分を満たすことに、努めたい」
  「それは、すごく、素敵なことね」

 

 


「うん、自分のことを満たそうとしない人が、他人を満たせるとは思えないから」
  「愛?」

 

 


「ううん、そんなものじゃない」
  「愛って、そんなもの、なの?」

 

 


「うん、だから、愛、も、結局ただの言葉だから」
  「言葉じゃない」

 

 


「嘘が嫌い、っていう人ほど、人に嘘つくよね、あれってなに?自分は嘘つかれるのが嫌だけど、自分が嘘つくのは良いってこと?」
  「そうなるね」

 

 


「ひどい話だな、そういう人ほど、自己肯定感が、とか、自分なんか死ねばいい、とか、言ってたりするんだよ、自分のことはしっかり守ってるくせに、どういう話だよ」
  「だからこそ、守りたくなるんじゃないの?認められないから、代わりに守ってるんだよ」

 

 


「それじゃあ、いつまで経っても前には進めないな」
  「前に進みたいわけじゃないよ」

 

 


「なら、嘘で、自分のことを守ってる自分のことは、せめて、認められたらいいね」
  「それって、君のこと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


●「上とか下とか、気にしがちだから、人間は、」
  「仕方ないよ、欲まみれだから」

 

 


「僕は、君が欲しい」
  「無責任だね」

 

 


「だって、僕と会えるのが今日で最後だとしても、君は平然としてるでしょ?きっと」
  「だから、それが無責任だねって言ってるの」
  
  「いつも、どうして先回りするの?それって、私の気持ちを蹴ってるよね、人と関わる、って、もっと残酷で、もっと疲れて、もっと気持ち良くて、もっと見つめるものだよ」

 

 


「傷つけた方が、もっと好きになる?」
  「ついた傷まで愛せるようになる」