せりふ

「ねむたいか、ねむたくないかではなくって、あの、眠りたくないの一択なんです、それだけしかないんです、で、起きると眠りたくなるんです、意味はなくて、それだけなんで。頭の中では、毎日夜の8時に眼鏡を磨いてます。手を洗うとき絶対お湯なんて出さないし、息をする事に時間をかけます。毎日着替えて、毎日お風呂に入って、毎日髪をとかします。それが生活をするってことで、たぶん、それは決まってることではなくて、生きてるのは一日ではなくて、その時だけであって、いずれ死ぬのなら、その時がどれほど尊いかを、思います頭の中で。今日もどこかの誰かの知らない人の声を聞いて、自分は目に見えるのに、空気は目に見えないことに怯えています。一瞬で無くなった。ずいぶんと含みすぎて、重たくなっちゃって、水滴がだらしなく、止めどなく垂れていて、それが朝か夜か昼かなんてどうでも良くて、僕は、きみの歯並びがとても好きです。隣に座って、「変だよ」って静かに笑うその時を、僕が捉えて、きれいな歯並びを、一番近くで一人占めしたい。目の前に置かれた焼き立てのパンより、すぐ隣にあるその手を噛みたい。ふわふわで、なんの香りもしない手。無機質な君との世界に、言葉は要らない。空間を埋めてしまうだけ、苦しくなるだけ、。「ちょっと髪、伸びたかな、」そうやって、時間が経っていくことを感じたい。ゆっくりなぞっていって、「かわいい?」「うん」「すき?」「うん」「なにが?」「うん」って。帰り道、横断歩道を渡っていく小学生のかたまりを、助手席から眺めて、「気持ち悪い」って僕が言って、沈黙が愛しい。いや、違う。違った。そうだった、ちがってた、それは、君に“したい”ことじゃなくて、“されたい”ことだった。きっとその、全てを捨てた歯並びの、向こう側で、きみの唾液は喜んでいる。だからなんだって話なんですけど、ひとことで言うとすれば、寂しい、ってことだと思います。」