救い

きみが好き、

 寂しさの、本質を知っているきみが、好きです。寄り添う、とは、どういうことか、自分の頭で、こころで、考え、ぬいているきみが、すきです。

   見えなくなってしまっても、見たくなくなってしまっても、きみは、いつも、いつでも、ぼくのなかに居て、あたたかい。

曝け出された肉体に、ぼくは、火をつけた。自ら火を、つけた。

        今は、飛び散らかったきみを片付けるのに忙しい。確かに笑って、お別れを叫んだ。

 

ひとつとひとつが、愛しい、ということ、少しは分け合えたかな。

無垢な記憶を、やさしく撫でたら、もう一度、

  言葉でごめんね

 

愁いを纏ったきみを、美しいと思ってしまう。

夜が来なくなった。

かたくなった奥に、思い切り爪を立てた。

見放されたきみは、それでも笑っていて、

つめたくなった先を、やわらかく噛んだ。

 

しっかり彷徨えるように、どこが最後か分からなくしたから、灯し方は、ぼくと、きみだけの秘密だよ

 

 

 

 

 

 

 

ね、好きだよ

あめ

覚めてほしい夢は、ぼくに絡み付いたままで、乾いた空気は、何かを拒んだままで、
それでも二人は笑ってた
足音の匂いを嗅いでおやすみ
消化しきれないものも、その存在として、否定しないこと
もどかしい距離も、寂しさと寄り添うことで、愛しくなってしまうこと
自らの手を動かしていくことが、一番気持ち良いと知った瞬間、世界は少しずつ、温度を取り戻す
見えてきたら、そこからは、もう、叫ぶしかねえ

 


ぬうあぬあーー!ーーーーー!ーーーーーーーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!ーーーー」ーーーーーーーーーーれー!ーーーーーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーー!ーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーー!ーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!ーーーーーーーーー!ーーーーーーーーーー」」」ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!ーーーれれ」ー!!!ー!ーーーーー!ー!ー!!ーー!!!!!ーー!ーー」ー」ーーーーーーー、好きなんじゃーーーーー!!!ーーーーーーーあーーーーーーーーーーーー!ー!ーーーーーーーーーーーーーーーーーー、!!ーー、


はい

 

せりふ 2

「舐めとってあげる。全部、全部、ぼくが、綺麗にするね。きみは丁寧に震えているけど、安心して。誰も、誰にも触れられないくらい、舐めとってあげるから。きみはしっかり急いでいるけど、時間に任せっきりだね。そのときにしかない唯一の煌めきは、緻密な計画と、行き来する生ものによって、偶然と隣り合わせで、育まれていて。『かなしいけど、すきだよ』それでいいよ。そのままでいいよ。分かります。ぼくは、ぼくの形は、ちゃんと今に存在しているはずで、周りの人間たちにも、認識してもらえているみたいで、それは、すごく分かるんです。でも、いつも、ぼくの中身は、どこかへ旅していて、一向に、一緒になれないんです。ぼくが知っていることは、なんの役にも立たないことばかりで、むしろ、中身のぼくは、形のぼくを嫌ってしまう。交わらないことに、恐怖を覚え始めました。上と下で、お互いがそれぞれを進んでいるだけ。記憶は、どこにも行ってくれないままです。全部いらないのに、ぜんぶ欲しくて、ぼくはそれでも、生きてしまう。突き落とされた想いは、あたたかいものを疑って、繰り返される日々の中の、微かな何かを、吐き出すようになりました。わかります。外側と思っていた線は、実はしっかり、内側に引かれていました。暗いだけの夜がすき。ぼくはなにも望まないし、食べてあげる、おいで、おいしそうな君。どんな味がするのかな。でもぼくは味付けはしないし、煮たり焼いたりしないから。安心していいよ、君はなにもしないでいいから、そこに居てくれたら、それだけでいいから。あとは僕が、ちゃんと味わうからね、すべて飲み込んで、僕の中に君がうまれたら、一緒に眠ろうね。わかります。手のひらが生ぬるくて、中身からは言葉が落ちていくだけで、きみも僕も、繋がっている気がします。ありがとう。」

六日前のメモ

『ごちそうさまでした。ん、これ、すんげえ美味しかった、また食べたい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君がトントン、と二回指を指したそれは、私が記憶していた、母の料理だった。どうしても食べたくなり、私の体がそれを求めたので、久しぶりに料理をした。お酒のつまみにとてもよく合っていて、君との夕方に、最高の組み合わせだった。


私に微笑むとき、必ず眼を見てくる。私がどこを向いていても、どの角度からでもそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


声、好き。時間を嗜むことが、お互いの過ごし方で、それがまた幸せだった。

 

 

 

 

 


『ね、ひとつ聞いてもい?』

 

 

 

 

 

 


「うん、なに?」

 

 

 

 


蛇口を捻った私に、いつものように、優しい力を使った話し方をする。


私は、コップの口を、丁寧に擦った。

 

 

 

 

 

 

 


『どうしてさ、左の袖口はまくらないの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「別に深い意味はないけど」

 

 


『なら、まくって』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あれ、。こんなに口から、水、出てたっけ。


さっきから音が、音がうるさい。


私って、爪こんなに伸びてたっけ。

 

 

 

 

 

 

 


「どうして?」

 


『いつもそうだから』

 


「いい、このままでいいのお願い」

 

 

 


君は、流し台に預けていた体を、私の方へ、重心をずらした。左手で、私の、まとまりきれずにこぼれた材料を、わざと、ゆっくり、耳にかけた。


音が途切れた。


水圧が、段々と強くなっていって、息をするのが難しくなった。さっきまで出来ていたことが、簡単に出来なくなってしまった。

君は、何も言わずに、ただ露わになった私の右半分を、じっと、見つめていた。

 

 

 

 

 


『そっか。分かった。』

 

 

 

 


空気を含んだ言葉を、呆気なく飛ばして、まだ始めたばかりの水を、君は止めた。はずなのに、どうも水が排水溝へと流れる音が、鳴り止むことはなかった。
後ろでまとめられた私は、とても短いはずなのに、今にも視線が天井に曲がりそうなほど、全てを吸収しすぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


「だめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だめ、だめだ、だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ、気づけば、ただの私を前に、水は勢いを更に増して、とうとう蛇口すら吹き飛ばしてしまっていた。床にぶち当たった。はずなのに、瞬きが邪魔になるほど静かだった。全てを覆い囲むように動き出すと、私の目の前に、ひとつだけの海が現れた。青黒かった。ここで魚は泳げない。


確かに視線は合っていない。でも、私は何も逸らせなかった。そこ以外、何も見られなかった。そのままを刻むことが、伝わっているだろうか。形を失う前と、そのあとでは、聞こえる速さはどれだけ違うだろうか。自分から漏れ出す鼓動は、煙に包まれた醜いものだろうか。僕は、君の声がずっと、ずっと好きだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あれ、違う、

 

 

 

 

 

 

 

 


水と違った音が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


君の足音だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『ただいま。

 

 

 


あ〜さむいねここ。

なにしてるの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あ、

 

 

 


「おかえり、今日はね、久しぶりに料理してるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『あ、すごい、美味しそうだね。すぐに手、洗ってくる。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


私の左腕は、同じ幅で切りそろえられていて、お皿に綺麗に盛り付けてあった。
パセリとレモンを添えて、和食というより、フレンチだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「きったない」

 


何故か、爪と皮膚の間の汚れだけは落とせなくて、悔しかった。そんなことはどうでもよかった。
今日も、愛しい声が聞こえる。
嬉しくて嬉しくて、急いでテーブルに持って行こうとしたとき、足元に転がっていた蛇口につまづいてしまった。なんとか着地したのものの、お皿の右端のふたきれが、無気力に落ちてしまった。

洗面台から戻ってきた君が、それを見て笑った。今までに見たことがないくらい、筋肉が全面協力した笑顔だった。


私はとても、幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『じゃあ、食べよっか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


速くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せりふ

「ねむたいか、ねむたくないかではなくって、あの、眠りたくないの一択なんです、それだけしかないんです、で、起きると眠りたくなるんです、意味はなくて、それだけなんで。頭の中では、毎日夜の8時に眼鏡を磨いてます。手を洗うとき絶対お湯なんて出さないし、息をする事に時間をかけます。毎日着替えて、毎日お風呂に入って、毎日髪をとかします。それが生活をするってことで、たぶん、それは決まってることではなくて、生きてるのは一日ではなくて、その時だけであって、いずれ死ぬのなら、その時がどれほど尊いかを、思います頭の中で。今日もどこかの誰かの知らない人の声を聞いて、自分は目に見えるのに、空気は目に見えないことに怯えています。一瞬で無くなった。ずいぶんと含みすぎて、重たくなっちゃって、水滴がだらしなく、止めどなく垂れていて、それが朝か夜か昼かなんてどうでも良くて、僕は、きみの歯並びがとても好きです。隣に座って、「変だよ」って静かに笑うその時を、僕が捉えて、きれいな歯並びを、一番近くで一人占めしたい。目の前に置かれた焼き立てのパンより、すぐ隣にあるその手を噛みたい。ふわふわで、なんの香りもしない手。無機質な君との世界に、言葉は要らない。空間を埋めてしまうだけ、苦しくなるだけ、。「ちょっと髪、伸びたかな、」そうやって、時間が経っていくことを感じたい。ゆっくりなぞっていって、「かわいい?」「うん」「すき?」「うん」「なにが?」「うん」って。帰り道、横断歩道を渡っていく小学生のかたまりを、助手席から眺めて、「気持ち悪い」って僕が言って、沈黙が愛しい。いや、違う。違った。そうだった、ちがってた、それは、君に“したい”ことじゃなくて、“されたい”ことだった。きっとその、全てを捨てた歯並びの、向こう側で、きみの唾液は喜んでいる。だからなんだって話なんですけど、ひとことで言うとすれば、寂しい、ってことだと思います。」

あなたさま

自らの手で息の根を止めてやりたいと、

心底その欲望に埋もれて快感を覚えていく、

道具に頼っては芯の中の色に染まらず、

紅く見えるだけの虚像では掴めるはずもない、

 

 

自らの感覚さえも痺れさせてしまっては、

殴り殺すどころか引っ掻くことすら不可能、

脳が縮む瞬間に目を瞑ってはいけないと、

常識に捉われていることなど範囲内、

 

 

指先ひとつで白い世界へ逝ける方法、

硬まる貴方だけに教えてあげる、

生ぬるい吐息をそのまま閉じ込めたなら、

其処にあるもの全てを握りつぶすだけ、

 

 

どちらが終わったか分からないほどに静寂な、

尖る足先を眺めては幸せを噛み締める、

意識に服従していく脆い覚悟は今もなお、

確実に輝きを纏い その瞬間を射止める、

 

 

 

 

 

 

 

 

名前

「こんどうです」

 

「みやしたです」

 

「あ、どうも、ささきです」

 

って。

 

どうして名字。

 

名字って、その家系とか組織のまとまりの部位、と僕は思っているけど。その代表です、みたいな感じで言うってことなのかな。名乗るときって、だいたい名字。なんで。ぼく、名前いいたい。最近名前で呼ばれてなさすぎて、自分の名前を忘れる。本当に。会社では名字だし、同期からはあだ名だし、家族からも呼ばれない。もはや、生活の中で、僕の名前が発音されることが、無いに等しい。僕の名前を使ってくださるそこの貴方、だいすきです。

 

 

 

 

そして今日の会社。

 

「ねぇほら、なまえがでてこない!あれ、あのーほらほら、上の部署で、あれ作ってる人!あのーーーぉう、、、、、、、、、。地雷!」

 

『地雷!!!?』

 

「だめだだめだ、地雷なんかつくっちゃ捕まるわ、じゃなくて、えーーーっと思い出せないや」

 

 

 

地雷じゃないです。

魚群探知機です。

 

せっせかせっせか、ただひたすらに、一生懸命に、真面目に、地雷を作っている姿、想像して、腹抱えて笑いました、死ぬ、