せりふ 3

 

 

 

 

 


「くるしいとか、さみしいとかって、言葉にできるうちはまだ良くて、言葉にならなくなってきた頃からが本番で、ああ、これから始まるんだって少し思ったくらいから段々と崩れていくのが、先にもう見えたりします。だから、対処が出来るようになりました。どうやったら自分の機嫌が取れるのか、もう知っています。それだけでも随分と違ってきます。言葉にできるなら、まだ大丈夫。そう思って突っ走ってみて、大きいあくびをします。君の声、僕の体内に取り入れる為に生きてきたのに、嘯いたその言葉が気持ちよかったから、生きてきたのに、昨日まで。浮き彫りになってしまった何かがいつも僕を見下ろしていて、あの日は確実にあったはずなのに、君はいつでも余裕でした。余裕のある人が好きです。空白を上手く使える人が好きです。足りないくらいで寝ます。もっと、って言えるくらいで、寝ます。言葉にすらなれなかったそれらの感情は、勝手に外に流れていって、自分の指で拭うのですが、それがまた虚しさを呼んで、もういっそのこと、心臓まで手を伸ばして潰してやりたくなるのです。何を言ったって、どうしたって、必ずいつかは死んでいるのに、必死になっている。必ず死ぬ。汗で床とくっ付いて歩く足、膝の内側に溜まった汗と膝の裏と頬にある小さなニキビと生えかかった眉毛とか、そういうのとか、そういうの達が余分な部分で、要らないけど実は欲しいのかな、でも要らないでしょとか思ったりする。本当はパフェ食べたいけど、我慢する。しても、しても、しても意味がない、いみがないことばっかりでつまらない。欲ばっかでつまらない。したいしたい、したい、きみと。きみのことで頭いっぱいになりながら、他の人とセックスする女の子とか、どれだけ居たりするのかな、ずるくて賢くて、誰よりも考えていて、でも表ではふざけてるみたいな、清楚な見た目で人を殺すみたいな。存在そのものの認識が、自分の心と違ってしまって、女として生きていたくない女なので、ぼくは本当にどうしようもないと思います。いろんなことを事細かに考えている人も好きなのですが、何も考えずにいる人もまた、好きなのです。ぼくが好かれていなくてもいいのですが、ぼくが勝手に好きなだけなのです。今日もずっと天気が悪くて、天気のせいにすれば良いのならそれでいいと思います。ネットもリアルも気持ち悪いです。どちらもこちらもあちらも、全部もう気持ちが悪いです。人間がすることは、本当に意味がない。あっても無くても、なくても在っても、本当に、どちらでも良いと思います。だからこそ、何かを見出したいと思います。せっかく生まれてきたから、この世で良い感じに暇つぶししてから死のう、みたいな精神でいよう。ですが、輝いている女性を見るのが堪らなく好きです。今日は、金曜日でした。」

さっき

 

 

 

 

 

 

 

 

充電の減りがはやくなった携帯。もうなにもすることがなくなった土曜日。やることがないのか、やりたいことがないのか、それに気付けていないだけなのかなんなのか、そういう細かいことはよく分からないけど、なにも考えたくないことだけは分かっていた。読んでいた本の中の、ひとつめの物語が幕を閉じたので、一息ついて、コーヒーを口に含んだ。甘い。苦いものが甘く感じるとき、それは、その物体のなんらかが変化したのか、それとも僕の中のなにかが違ってしまっているのか、答えは簡単だった。とにかく、もうなにもやることがないので、ひとまずベッドに横になる。枕ではなく、ぬいぐるみに頭を置く。少し身体を傾けると、視界も少しズレた。真ん中はあるけど、カーテンや家具の線が、真ん中ではなくなった。まんなかに、自分の手のひらが見える。指を折り曲げると、中指の爪だけ短くて、先っちょの白い部分が無い。また、手を広げた。特になにも考えてないのに、勝手に手が動く。指も、関節も。そうして、無意識に、爪の長さの感想が出てくる。どうして。無意識とはいえ、しっかり意識の内に入っている気がして、なんだか怖くなった。結局、僕を動かしているのは、僕ではなくて、僕の中の組織の仕組みの方であって、そちらが先に存在しているようで、それが事実かはどうでも良かった。指先から、手首、腕、と目線を下すと、これもまた、無意識にしてしまった自傷行為の痕で黒ずんでいる皮膚だった。行為後、膿んで、かさぶたになって、痒くて、掻いていたら、もう消えない色素に変わってしまって、今までは痕なんて数週間後には消えていたのに。これは、自分の体が灰になるまで一緒なのか。夏までに消えていなければ、それは確証へと変わるが、それが事実かもどうでも良かった。妄想をしよう。好きな人が、僕の腕を、痕を、舐めてくる。今日は曇っていて、眩しくはないけど、空気がじめっとしている。何も言わずに、ただひたすら、ゆっくり、君の粘膜が、僕の腕を駆け巡っていく。口の中で、肉体の破片と唾液が、くっついたり離れたりする音が響いていて、更に空気が浮ついていく。舌先がぬるくて、でも、たまに被さる息はどこか冷たくて、たまに、線と交わるように、縦に這う。

そこは、確かに僕の皮膚で、その下では僕の脈が通っていて、神経が、なんらかの刺激を伝えてくれるはずなのに、僕は、舌先が出たり引っ込んだりする君の姿を処理するのに忙しくて、なにも感じ取れなかった。もちろん、痕が消えるわけでもないのだけど。君は、次第に其処を噛むようになって、上の歯と下の歯が僕の皮膚を摘んでは、優しく力を加えて、離した。硬い。僕の皮膚と、君の口が、透明な糸で繋がれて、とてもよく伸びていたので、僕は、右手の人差し指で、軽く絡め取った。君がこっちを向いたときにはもう、赤く光っていて、ここから見ても、かなり濡れているのがよくわかった。「臭そう」『臭くてもいいでしょ』「うん」『綺麗だよ』という会話をして、僕はまたなにもすることがなくなった。カーテンの一番下が、小刻みに揺れている。風、少し吹いてるのか、と思う。思う。心で?頭で?ややこしい。そんなのこと思わなくたっていいのに。それならもっと、刺激の記憶が欲しかった。温度とか、見た目とかじゃなくて。なにかしたいけど、なにもしたくなくて、なにかしたいんだろうけど、なにかなのかが分からないままで。卵、って、卵っていう名詞、すごいな、人間も、卵、だったら、卵の売買ってあっただろうか。A5ランクだとか、数字で競いあったりするだろうか。今まで履けていたズボンのボタンが止まらなくなって、自分の身体の成長を実感したけど、特にそれ以外の成長は見当たらなくて、中身の肉とか脂肪とかの面積が増えれば、僕の皮膚もそれだけ伸びていくのか、開拓されていくのか、これからの夏をどう生き過ごすか、今からとても不安がっているの、僕の心か、頭か、体なのか、知らなくていいことばかり、知りたくなってしまって、しょーもな。そういえばコーヒー、氷をコップいっぱいに詰めあげて、熱々のコーヒーを注いで、そこが触れたところから氷が力尽きて、どんどん崩れていって、角ばったところが滑らかになっていって、ひしめき合って、熱に抵抗できない感じが、とてもエロかった。今、今だ。ってなった。ぼくが僕を求めいるわけでもないけど、この世界を生きるには、僕が必要な気がした。

え?

 

 

 

 

食べたい・寝たい・したい

 

の欲と仲間の、死にたい、の方じゃない、死にたい、の気持ちは、割と残ったり出てきたり色々するけど、結局のところ、僕が一番死にたくなる瞬間って、トイレで血塗れのナプキンを付け替えるときであって、その時が、数秒が、僕の世界を見事に支配してしまうから凄い。生理痛の薬を飲んだところで、なにかが和らぐことなんてないし、むしろこの世にいくつもの女性が発生しているのに、皆んながトイレの中で同じような行動をしている事実に抗えない、無力な、女性な、僕が、とても醜い。子供を産みたいとか、つくりたいとか、育てたいとか、欲しい、とかの、とかの概念が全く無いので、死ぬまで無いので、これは、これだけは断言出来るので、もうどうしようもない。女の身体で出てきてしまった以上、僕はそれを生かしたい気もするけど、けど、僕の血が、どうしてトイレに流れていかなければならないのか、さっぱり分からない。望んでるとか、望んでないとかは、綺麗に無視された状態で、時は進むのか、はあ、ため息が好き、ため息をついている人を見聞きすると、安心するから、すき、この人も頑張ってるから、僕も頑張ろうと思えるきっかけ、ため息。自分の内側に溜めた、有害な空気を、無意識に吐き出している姿、ありがとう。ため息を聞いて、むしろ気が楽になる。僕を離してくれない血が、トイレの水を赤く染めて、レバーをひねれば簡単にお別れ出来る仕組みで、それ以上でも以下でもなく、意識が痒くなってきて、僕が女性として生きることで、何も変わりゃしないのだ。パンツをずらして、ナプキンから血がはみ出していて、要らないところが赤く染まっていて、僕は今日もため息をついて、無情に水を流す。

固まり

 

 

 

 

 

 

控えめに上を向いた指先と、

熱に浮いた甘い言葉を吸って、

一直線に点滅が走って、

狭い入り口に、

目を瞑って、

縦に染まって、

輪郭が裂けて、

無いことばかり綴ってしまって、

不潔な静寂ばかり求めてしまって、

冷淡な匂いが、

膿んだ悪意を引きずり下ろしていく、

君は僕に沈んだまま、

右が上で、下が左で、

距離が交点を遮って、

今、

空虚な終わりを解く、

 

 

 

 

娯楽

 

 

 

 

 

声の間に掠れたまばたきが、白く欠けて、

すでに錆びた道徳は、無限の広がりの中を、漂うだけ、
焦ったいままの視線は、あっけなく揺れる、

 

 

 


「夏なんて、来なくていいのにな、」

 

 


好きだったあの子の香りが、底の底まで蘇る、
潰れた果実は、腐ったふりをして、過去を痛めつける、
喉を通らなかった味を、記憶してしまった、

 

 

 


見えないものに、支配されて、
見えないものを、愛してみて、
見えないものが、多すぎて、
見えないことにしてしまった、

 

 


それで良かった、

 


はずなのに、

 

 

 


生きている意味がどこにも無い僕は、
生きていく理由を探している、

 

 

 

 


「見て、」

 

 

 

 


虚像を咥えた君は、今、鮮明に映る、
僕の心は、白く飛んで、
それから、

 

 

 

 

アイス食べたすぎて死ぬ

 

 

 

 

 

 

造られた側の僕が創り出す

圧倒的な森羅万象

アダムとイブは必要なかった

 

 

肉体に心を込めて、
掟なんて必ず無視して、
不確かばかりを欲しがるきみに、

 

 

小さくて大きい、

強くて弱い、
白くて黒い、


切り取ることを諦めた僕は、
ひたすらに流れ、先立つ本質を見捨てていた、
すべては平等に意味がなく、
ただ、それが、在って無い、ということだけだった


地を這う姿を解釈する前に、

 

僕には君だけが、生きている

「夜更かしの末」

行かないでって記憶が滲む僕
右手だけが言うことを聞く世界で
望むことを諦めた君


べつに、きみの香りに埋もれて寝たいとか思ってないし

べつに、きみの肺を飾った煙を全部飲み込みたいとか思ってないし
べつに、きみとだけの世界を凍らせてそのまま生かせたいとか思ってないし


勝手に掻き鳴らして気持ちよくなる君
渇いた雨が形だけを撫でる世界で
俯くことを先延ばしにした僕


べつに、きみの髪にぼくだけが触れて、きみの肌にぼくだけが触れる瞬間なんて無くていいし
べつに、きみが落とす視線の先に居れたらなんて願ってないし
べつに、きみが不安になってぼくに甘えてくる夜とか来て欲しくないし


べつに、
べつに、
好きだけど、
べつに、

 


君に映らないだけの僕
少しだけ混ぜた期待の味は、とっくに、

 


べつに、きみからの好きが貰えなくてもぼくはずっと好きだし
べつに、きみの中にぼくが居なくても大丈夫だし
べつに、きみと一緒に朝を起こして無敵になりたいとか思ってないし
べつに、きみに溺れてぼくを見失っていつの間にかきみはあの子と幸せになっていても


べつに、
べつに、


好きだよ